8.2.1「顧客満足」不適合実例から学ぶこと
先月末、ISO9001の認証を既に取得して一年以上が経過している顧客企業
(以後A社とします)を訪問し、お話を伺ってきました。
話の中心は、A社がサーベイランス監査の際に審査員に不適合として指摘された
「顧客満足」に関することです。そして話を伺った後で私自身「顧客満足」に対して
考える部分があったため、今月のトピックは顧客満足とすることにしました。
まずは、A社の紹介です。30名規模の土木工事業。一般の公共土木工事と、
住宅地などの開発工事を業務として行っています。そのため、土木工事業者ですが
「7.3設計・開発」も適用されており、官公庁だけではなく、民間の業者も顧客となります。
そして今回の監査で指摘されたのは「民間工事に関しての顧客満足度の調査ができていない」ということでした。クレーム情報を監視して、さらに工事終了時には顧客からの聞き取り調査により満足度を調査して会議の議題にするというのが従来の手順。
きちんと議事録を取っているために初回監査では適合と判断されていたのですが、
今回は不適合になりました。そして、話を聞くとどうやら「アンケート調査」の導入を
アドバイスされたということです。
ここで、もう一年以上前になりますが、A社がISO9001に取組始めた当初を思い出しながら書かせて頂きますね。
ISO9001:2000が登場した当初より「アンケート調査」は、極めて一般的な顧客満足の情報の入手方法として多くの会社に活用されています。
「アンケート調査」という手法は、
◆回収しにくい
◆建設業などのお客様と顔を合わせるような職種だとどうしても悪いデータが集まりにくい
というようなデメリットがあります。ですが、
◇顧客の意見がストレートに反映される
というメリットはありますし
◇顧客へのアピールになる
◇従業員への意識付けになる
という顧客満足の調査とは言い切れないものの、メリットと数えてよい要素も多くあります。ですから私がコンサルティングをする場合は採用する、
しないに関らず「アンケート調査」は必ず顧客企業に紹介するようにしています。
ですがA社はこの「アンケート調査」という方法を導入しませんでした。
それは、主として
●顧客が引渡しに応じたという点で、一義的には顧客満足は達成している。
●「造成地」の品質をパフォーマンス的な観点から判断するためにはかなり専門的な
知識が必要。そのため顧客がアンケートで答えるのは難しい。
という理由からです。
要するに、良し悪しが分かりにくい性質の製品に対して「アンケート調査」という手法では
顧客満足度を測定することができないという判断でした。
決して「アンケート」を行うのが嫌だから避けたわけではなく、「アンケート調査」をしたところで顧客満足の情報の入手方法としては適切ではないという判断からです。
確かに、私も「家」の良し悪しなら何とか自分の主観で判断できます。
また「造成地」の近隣環境に関しての良し悪しは、何とか判断できるかもしれません。
「学校が近い」「お店が近い」「近くに公園がある」などの項目であれば。
ですがA社の言うとおり、施工状態に関しての良し悪しは、さっぱり判断できません。
そして、結果としてA社が取り入れたのが「聞き取り調査」です。
「聞き取り調査」は
◆調査者の主観的なものになり、役に立たない可能性がある。
◆いい部分だけ聞くために「よい評価」になりがち
いうデメリットがあります。ですが、
◇確実に調査を行うことができる
というメリットはあります。また調査方法と、調査を行う人間を考慮すれば、ある程度は客観的な調査をすることは可能です。
そこで、総合的な判断としてA社は、「アンケート調査」をやめて、「聞き取り調査」という方法を実施したわけです。
ここで、話は現在まで戻ります。
今回サーベイランス審査において、A社が今回の監査で指摘されたのは「不適合」です。
「不適合」には当然是正処置を取らなければいけません。そこで、A社は考えました。
「いよいよアンケートにしようか」と。
「アンケート調査」にしておけば、審査員が満足することはわかっています。
ですが、どうしても「アンケート調査」という方法で本当に顧客満足の情報を入手することができるとは考えにくい。そして、結局迷ったA社がとった手段。それは、何と現場代理人の自己評価というものでした。どういう方法かというと、工事が終了した後、現場代理人が顧客満足を満たすための行動を振り返り、資料1にある調査表を用いて自己評価を下すという方法です。
紙面の都合上、資料が小さくなってしまい申し訳ありません。解説すると、手順としては
@工事毎に調査票を発行。帳票の真中部分にこの工事に限定した顧客要求を記入する。
B工事終了後、その要求に対して、どれだけ具体的に満たすことができたかを自己評価する。
という流れです。顧客の要求を、いかに満たしたかを自分で判断する。
これは、見ようによっては自己満足の評価であり、顧客満足の評価とは見えないかもしれません。ですが、現場代理人は専門的な視点から判断することができますし、人間は自己評価ということになると中々満点は付けにくいものです。
ましてはA社の場合、顧客とのやり取りは完全に現場代理人が行う手順になっています。
そのため、A社としてはこの方法が一番顧客満足に関する情報を得るにはよいという判断が下されたわけです。
実はこの是正処置、様式を見ただけでは分かりづらいせいか、審査員からは最初
「顧客自らが判断するのが顧客満足」というコメントと共に、却下されました。
ですがA社の方が電話をかけて、その使用方法を説明すると「わかりました。
来年、また検証しましょう」という返事にかわり、結果として是正処置として完了したのです。そもそも初回監査のときも同じ審査員だったので何故今になって不適合なのか?
という気持ちもありますが・・・まあ今回はそれが言いたいことではないので、審査に関してこれ以上は書きません。
■ 顧客満足に関する考察
それでは、何故今回、私が紙面を大きく割いてまでこの話をしたのか?
それは、このお話を皆様にすることにより、改めて一度「顧客満足」という言葉を真剣に見直して欲しかったからです。そこで、そのためにもまずは「顧客満足」に関して復習をしておきましょう
JIS Q 9001:2000 品質マネジメントシステムー要求事項解説によると
○顧客満足=顧客要求事項を満たしている程度に関する顧客の受けとめ方(解7P)
○顧客満足に関する主要な要求事項は、製品が顧客要求事項を満たしている程度に関し て顧客がどう受けとめているかについての、顧客の反応に関する情報の監視となる。(解 8P)
○顧客満足の“satisfaction”は、優・良・可・不可の”可“程度に相当する。
顧客要求をかろうじて達成した状態でも“satisfaction”となる。(解12P)
○この用語における重要な概念は、非常に満足している状態を意味するのではなく、
どの程度満たしているかに関する顧客の受けとめ方にある。(解12P)
という言葉を見つけることができます。
これらの言葉を見ると、例えば受注生産型の建設業の場合、何点のできであろうが顧客が引き取ったということは、全て顧客満足。点数でいうなら100点とみなしてもよいと判断できます。「受取不可」でなければ満足ということですから。
言い方を替えると、「受取不可」があると初めて点数が悪くなるということ。
そこに基準を合わせると、何とも低い到達点だと思われるかもしれません。
ですがそのレベルでも、ISO9001は適合します。
つまり、本来「適合性」だけを考えると、A社を含む、公共土木工事の企業様は殆どが、
実は顧客満足100%達成なわけです。そこにハードルを合わせてもよいという決まりにすればですけどね。まずは、ここを理解して下さい。
そこから考えると、多くの会社はISO9001の定義する「顧客満足」以上の顧客満足を自社で定義していると考えても間違いではないでしょう。「ISOにやらされている」のではなくて「自社で選択してやっている」のです。いいですか?「自社で選択」しているのです。
そこで、改めてお伺いします。
○現在の方法で本当に顧客満足の情報が入手できていますか?
○顧客満足度が向上することにより「再購買率」や「紹介率」は、上がりましたか?
アンケートを取っているだけで、何か安心していませんか?ISOの審査のために、顧客満足の情報を入手していませんか?
私は以前、大手流通業に勤めていました。その会社は「顧客満足」を追求している企業で、挙げだすときりが無いくらい様々な取組をしていた記憶があります。「売上げ」「返品率」「品揃え」「最購買率」など様々な指標により顧客満足度を判断していました。たまにアンケートを行うこともありましたが、当時の私はアンケートを、信頼できるデータとして扱うことはしませんでした。
私は現在、ISOコンサルタントをしています。顧客企業にアンケートを書いてもらっています。よい評価を貰うことが多いので非常に嬉しく思いますが、実際問題長い間一緒に頑張ってきた人間に対して辛いことを書くことはできないお客様の心理はよく分かります。
なので、ここでも、アンケートを顧客満足のデータとして100%信頼することはできません。
むしろ私は、アンケートでよい評価を貰うよりも、知り合いの企業様を紹介して頂くことが
できれば、それが一番の顧客満足だと考えています。
そして、それを目指して頑張っています。
さて、話は変わりますが、私の義兄は8年前に家を建てました。
細かい話は割愛しますが、家を建てた後に、固定資産税関連で自分が思っても見なかった事実が判明したそうです。
そのことに関して工務店の方が全く教えてくれなかったことに対して、
未だに腹を立てています。竣工後、アンケートに答えたかどうかわかりませんが、
現在の義兄は満足していません。
ISO9001品質マネジメントシステムとは、顧客満足を向上させることを目的としたシステムだといいます。あなたの会社が定義する、「顧客満足」とはどういうことでしょうか?
何のために顧客満足を追及していくのでしょうか?
くどいようですが、まずは、もう一度、今回の記事にある質問に率直に答えることから始めてください。それに対する答えが見つかったら、次にあなたの会社の品質マニュアルの「8.2.1顧客満足」の項を開きましょう。そして顧客満足に関する情報を入手する手順が適正かどうか、本当に自社が定義する顧客満足の情報をえることができているかをまず見直してみて下さい。
そして、データの上で顧客満足が向上しているのであれば、
それによって最購買率が上がったり、又は紹介してもらうようなことが増えたのかどうか。
一度はそこまで掘り下げて考えてみるといい方法が見つかるかもしれませんね。
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